連結会計⑨債権債務の相殺消去行ったときの貸倒引当金の調整

はじめに

連結⑥連結グループ内の内部取引を相殺消去する』で、連結会社相互間の取引があるときの債権債務の相殺消去を取り上げました。

連結グループ内なのに実際に貸倒れが生じるかどうかは別の問題として、相殺消去した債権に対し貸倒引当金が設定されている場合には、連結上、その貸倒引当金を調整する必要があります。

今回の記事は、ダウン・ストリーム(親が債権者)、アップ・ストリーム(子会社が債権者)と税効果会計の処理も出てきます。

まずは、税効果会計を無視してみてみます。

貸倒引当金の調整(税効果会計を考慮しないバージョン)

まず資本関係は、親会社が子会社の発行済み株式総数の70%を保有しているものとします。

0056資本会計図

ダウン・ストリームの処理

まず取引関係の前提は下記のとおりとしたいと思います。

  • 01年に親会社は子会社に対して、100,000の売上を計上し、期末時に10,000の売掛金を計上しています。
  • 02年に親会社は子会社に対して、200,000の売上を計上し、期末時に20,000の売掛金を計上しています。
  • また、親会社は子会社に対する売掛金期末残高に毎期1%の貸倒引当金を設定しています。
  • なお、親会社と子会社の債権と債務、取引高にズレは生じていない。

01年と02年の、それぞれの仕訳を考えたいと思います。

【01年度】

取引、債権債務の相殺消去を行う仕訳は、次のようになります。

取引と債権債務の相殺消去仕訳

借方金額貸方金額
売上高100,000仕入高100,000
買掛金10,000売掛金10,000

ここで、連結上、貸倒引当金を設定している売掛金が相殺消去されたため、設定先の貸倒引当金を調整(消去)する必要が出てきます。

売掛金の1%に設定されているため、個別上で計上されている金額は、100(=10,000×1%)となりますので、100となります。

よって、調整する仕訳は、個別上の反対仕訳のようになり、

貸倒引当金の調整仕訳

借方金額貸方金額
貸倒引当金100貸倒引当金繰入額100

この貸倒引当金の調整仕訳は、損益に影響を与える(借方がBS科目、貸方がPL科目だから)ため、未実現損益消去のように、負担割合を考えなければならないのですが、今回はダウン・ストリームであるため、非支配株主は存在せず、仕訳もありません

【02年度】

開始仕訳を作成します。

01年の開始仕訳作成対象は、貸倒引当金の調整のみです。

理由は、連結決算④を参照していただければと思いますが、BS科目とPL科目が入り混じっている(損益に影響を与える)のは貸倒引当金の調整だからです。

開始仕訳

借方金額貸方金額
貸倒引当金100貸倒引当金繰入額
期首利益剰余金
100

取引と債権債務の相殺消去仕訳

借方金額貸方金額
売上高200,000仕入高200,000
買掛金20,000売掛金20,000

貸倒引当金の調整仕訳ですが、金額は200(=20,000(売掛金)×1%)となりますので、

借方金額貸方金額
貸倒引当金200貸倒引当金繰入額200

アップ・ストリームの処理

損益に影響を与える仕訳に対して非支配株主が負担する金額を考えることになります。

損益に影響を与える仕訳として、未実現損益の消去、未実現損益消去の実現仕訳がありました。

今回の貸倒引当金の調整仕訳も、非支配株主の負担金額を考えることになります。

前提は、ダウン・ストリームの逆としたく、次のようになります。

  • 01年に子会社は親会社に対して、100,000の売上を計上し、期末時に10,000の売掛金を計上しています。
  • 02年に子会社は親会社に対して、200,000の売上を計上し、期末時に20,000の売掛金を計上しています。
  • また、子会社は親会社に対する売掛金期末残高に毎期1%の貸倒引当金を設定しています。
  • なお、親会社と子会社の債権と債務、取引高にズレは生じていない。

【01年度】

ダウン・ストリームの01年の貸倒引当金の調整仕訳は100であるため、非支配株主が負担する金額は30(=100(調整金額)×30%(非支配株主持分割合))となるため、01年の連結修正仕訳は次のようになります。

取引と債権債務の相殺消去仕訳(ダウン・ストリームと同じ)

借方金額貸方金額
売上高100,000仕入高100,000
買掛金10,000売掛金10,000

貸倒引当金の調整仕訳

借方金額貸方金額
貸倒引当金100貸倒引当金繰入額100
非支配株主に帰属する当期純利益30非支配株主持分30

貸倒引当金の調整仕訳のPL科目(貸倒引当金繰入額のこと)が貸方にあるため、PL科目である「非支配株主に帰属する当期純利益」を借方にすると、親会社負担は70となります。借方と貸方を逆にすることもありがちです。

【02年度】

01年度と同じく、基本的にダウン・ストリームと同じであり、損益に影響を与える仕訳は非支配株主に負担させるという処理になります。

まず開始仕訳です。

借方金額貸方金額
貸倒引当金100期首利益剰余金100
期首利益剰余金30非支配株主持分30

次は、取引と債権債務の相殺消去仕訳です。

借方金額貸方金額
売上高200,000仕入高200,000
買掛金20,000売掛金20,000

最後は、貸倒引当金の調整仕訳です。

借方金額貸方金額
貸倒引当金200貸倒引当金繰入額200
非支配株主に帰属する当期純利益60非支配株主持分60

貸倒引当金の調整(税効果会計を考慮するバージョン)

税効果会計は、当サイト「やさしい会計」でまだ扱っていないのですが、この文章を読んでいただいているということは税効果会計もある程度知っていらっしゃるかと思いますので、趣旨や理屈はまた別記事に譲らせていただいて、仕訳の観点から説明していきたいと思います。

税効果会計を適用するということは、前述までの仕訳に税効果会計が入るまでなのですが、一時差異(税効果の対象)となる仕訳は、取引高・債権債務の相殺消去はならずに、貸倒引当金の調整仕訳が対象となります。

間違いやすい論点としては、アップ・ストリームで、非支配株主の負担を考えるときに、税効果会計を負担前に適用するか、負担後に適用するのかということがあるかと思います。

答えは、税効果会計を先に適用し、適用後の金額を非支配株主に負担させるというものになります。

以下では実効税率は40%として、みていきたいと思います

ダウン・ストリームの処理

【01年度】

取引、債権債務の相殺消去の仕訳

借方金額貸方金額
売上高100,000仕入高100,000
買掛金10,000売掛金10,000

貸倒引当金の調整仕訳

借方金額貸方金額
貸倒引当金100貸倒引当金繰入額100
法人税等調整額40繰延税金負債40

法人税等調整額a/cは、税効果会計を適用する仕訳のPL科目の逆にしています。貸倒引当金繰入額a/cがPL科目であり、貸方となっているので、法人税等調整額a/cは借方ということになります。また、金額は、40=100×40%です。

そろそろ慣れてきたでしょうか?02年度は仕訳だけ示したいと思います。

【02年度】

開始仕訳

借方金額貸方金額
貸倒引当金100期首利益剰余金100
期首利益剰余金40繰延税金負債40

取引と債権債務の相殺消去仕訳

借方金額貸方金額
売上高200,000仕入高200,000
買掛金20,000売掛金20,000

貸倒引当金の調整仕訳

借方金額貸方金額
貸倒引当金200貸倒引当金繰入額200
法人税等調整額80繰延税金負債80

次は、アップ・ストリームの処理です。

アップ・ストリームの処理

【01年度】

取引、債権債務の相殺消去の仕訳は同じです。

借方金額貸方金額
売上高100,000仕入高100,000
買掛金10,000売掛金10,000

貸倒引当金の調整は、税効果会計を適用してから、非支配株主に負担させるので、非支配株主が負担する金額は、(100-40)×30%=18ということになります。

貸倒引当金の調整仕訳

借方金額貸方金額
貸倒引当金100貸倒引当金繰入額100
法人税等調整額40繰延税金負債40
非支配株主に帰属する当期純利益18非支配株主持分18

【02年度】

まずは、開始仕訳です。

01年度の貸倒引当金の調整仕訳のPL科目を期首利益剰余金に変更すればよいのです。

借方金額貸方金額
貸倒引当金100期首利益剰余金100
期首利益剰余金40繰延税金負債40
期首利益剰余金18非支配株主持分18

取引と債権債務の相殺消去仕訳は、税効果会計の適用、アップ・ストリーム、ダウン・ストリーム関係なく、すべて同じでした。

借方金額貸方金額
売上高200,000仕入高200,000
買掛金20,000売掛金20,000

01年度と同じように考えると、税効果の金額は80=200×40%、非支配株主が負担する金額は(200-80)×30%=36となります。

貸倒引当金の調整仕訳

借方金額貸方金額
貸倒引当金200貸倒引当金繰入額200
法人税等調整額80繰延税金負債80
非支配株主に帰属する当期純利益36非支配株主持分36

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